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気になったものを調べてメモる

海外で活躍し始めたローカルヒーロー -メルボルン、Hiatus Kaiyoteの場合-

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このエントリーについて

自分は2013年に1年間メルボルンに滞在していました。2013年はメルボルンの地元バンドHiatus Kaiyoteがソニーと契約し、デビューを飾り、各国でツアーをし、グラミー賞ノミネートまで至った年です。

このエントリーは、彼らの地元や周りの人たちのソワソワした感じを一緒に共有させてもらった当時の日記です。

後の(というか当時の時点でも)彼らの活躍を考えると、かなりレアな体験だったと思いますし「地元の音楽家の海外評価が高まったとき、本人や街、周りの反応はどうだったのか?」という視点で捉えると、こちらのフィッシュマンズのエントリーともやや関連するかもと思い、tumblrから転載しました。
滞在当時に書いた日記なので、エモ要素が1~2割くらいありますがご容赦ください。

 


2013年8月6日 "DAT SCHLUMP FUNK"

Hiatus Kaiyote。メルボルンの4人組のフューチャー・ソウル・バンド。昨年(2012年)の後半にTwitter上でErykah Baduによる賞賛を得てから、世界からの注目が高まり、ソニーのグローバルレーベルFlying Buddhaと契約したばかり。そして北半球が夏に差し掛かった頃から、James Blake、Common,Flying Lotus、D'Angelo、Princeらと共に欧州、USのあらゆるフェスに出演しまくっている。

Hiatus Kaiyoteの存在を知ったのは、彼らがQ-tipをfeatureした音源をFlying Buddhaからリリースする直前の6月。市内のとあるレストランで行われたビートメイカー・Silent Jayのショウケースがきっかけだった。

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お目当てではなかったにもかかわらずSilent Jayのライブはとても素晴らしく、余韻を引きずりつつ彼のプロフィールを検索してみたところ、彼はビートメイカーであり、サキソフォニストであり、そしてHiatus Kaiyoteのコーラスを担当していることがわかった。さらに彼と同じ様にHiatus Kaiyoteのサポートメンバーとして活動しつつ、個人としても優れた音楽家の存在を他にも知ることも出来た。

メルボルンにもローカルな音楽のコミュニティがあって、Haitus Kaiyoteは今、そのコミュニティの中心的存在になっている。彼らを紐解けば素晴らしい音楽に出会えるし、彼らをきっかけにして友達も出来た。

「ちょっと前まで、この街で一緒に演奏してたのにすごいよね!」
同じトラムに乗り合わせた地元のアフロ・ビートのバンドのメンバーの子が、興奮気味に彼らについて話す。

ヨーロッパツアー中の彼らのライブが、Boiler Roomのストリーミングでロンドンから発信される。冬の真夜中に、夏の午後の生中継に釘付けになる。「昨日観た?」と友達にメールする。

”The Tonight Show with Jay Leno”へ出演した際の映像に感動する。その後のYouTubeへのアクセス数の伸びを観て悦に入る。

彼らの存在は、自分が今メルボルンという街に住んでいることを際立たせてくれる。

 

2013年9月24日 "A Change Is Gonna Come"

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Hiatus KayoteがFlying Buddhaと契約し欧州&USツアーを敢行した後の9月、ボーカルNai Palmの凱旋ライブが地元Northcoteで開催された。会場のNorthcote Social Clubの総客数は、100人に満たないくらい。Nai Palmの友達が多く参加している様子で、参加できない友達の為にSkypeを繋いでいる子もいた。


「私たちの音楽をプリンス、バドゥ、クエストラブ等が賞賛してくれました。そしてスティービー・ワンダーも!」


初めて生で聴くHiatus Kayote、というよりNai Palmの音楽はYouTubeで感じた通り、オーセンティックでコンテンポラリーで、ライブは一層清々しくて、ソロ専用らしき曲やNakamarra、Mobius StreakといったHiatus Kayoteの代表曲、バンドの新曲、"Can’t help it “のカバーをリラックスした雰囲気で演奏してくれた。兎に角ギミックなしの、正真正銘の才気と魅力に溢れる女の子だった。

 

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「つい最近まで、沢山の国で素晴らしいミュージシャンと演奏をおこなったけれど、メルボルンは音楽の愛に溢れた街だと思う。私はこのローカルシーンをサポートし続けます。そしていつか、みんなでもっと大きな花を咲かせよう!」

挨拶のあと、彼女はアンコールに応えてSam Cookの"A Change Is Gonna Come"を最後に唄った。

I was born by the river in a little tent
Oh and just like the river I’ve been running ever since
It’s been a long, a long time coming
But I know a change gonna come, oh yes it will


自分はオーストラリアの文化についてはまだまだ理解に乏しいけれど、隔たった場所に存在する英語圏ということは確かで、非欧州、非アメリカでありつつ、欧州とアメリカの文化を消費しまくってる人らを相手にしなければならない状況は、何かを創作する人たちにとっては色々と狼狽することもある様に感じる。

 

But I know a change gonna come, oh yes it will

 

文脈は違えど「それでも変化は訪れる」という、帰ってきたローカル・ヒーローの歌声が響き渡る会場からは、自分がこの街に長く居続ける目的のひとつになっていた「現地の文化的コミュニティの雰囲気を感じとる」ということを十分に堪能出来たんだけど、何故か東京が恋しくなってしまった。

 

Hiatus Kaiyoteは、デビューアルバム「Tawk Tomahwak」をノースコートにある自宅のスタジオで録音した。そして収録曲の「Nakamarra」は、カリフォルニア州最大のインディペンデント・ラジオ局の1つであるLAの「KCRW」によってピックアップされる。

そこから音楽シーンの伝言ゲームが始まった。Animal Collectiveのメンバーがそれを聴いて、Dirty ProjectorsのAngelに聴かせ、RootsのQuestloveに聴かせ、Erykah Baduの作曲者に聴かせた。

その後、BaduはHiatusを "愛している"と公言し、Princeは彼らについてtweetし、Tribe Called QuestのQ-Tipは、「Nakamarra」の再リリース・ヴァージョンでラップを披露することになる・・・

 

Melbourne `future soul' band find success offshore  

2013年10月12日 "Nakamarra"

 

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メルボルンの象徴ヤラ川沿いに建てられた簡易屋内ステージでの公演が、2013年最後のHiatus Kaiyoteのライブだった。会場のキャパは恵比寿リキッドルームくらい。開演前に会場入り口で待ち合わせた友達とダベっていると、ボーカルのNai Palmが目の前に居ることに気づいた。彼女も同じように地元の友達と会話をしていた。取り置きしているチケットを渡してあげて、自転車置き場を案内している様だった。

メルボルンの乗り物に定刻に乗れることが稀なように、ライブも定刻には始まらず、そして演奏が始まってもスタッフがそれを教えてくれず、前座のClever Austinのライブは10分強しか見れなかった。Clever AustinとHiatus Kaiyoteはメンバーがほぼ被っている為、そのまま間髪いれずにHiatus Kaiyoteのショウが始まった。

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セットリストの中では「Nakamarra」がやはり素晴らしく、所々で原曲とは異なる譜割が適用されていた。曲の後半にはドラムとクラップとコーラス、鍵盤楽器で構成されるミニマルな展開のRainbow Rhodesへスムーズに繋げて陶酔させてくれた。

soundcloud.com

彼等の演奏は全般的にこんな感じで、自分が今まで見てきたバンドにはない伸縮性があって、縦にも横にもとてもよく伸びる。強弱と速度の両方に大きな振れ幅を持っている。ベロシティとクォンタイズの両方を全然物怖じせずに楽しそうに皆でグイグイ伸ばしていくのが見ていて清々しい。

ドラムと歪んだシンセ、その2つの音がスイッチし続けるという展開の曲もあり、そういうDAWっぽさをしっかりと生演奏で再現出来ている点も、普通のライブバンドとは一線を画すビジョンとスキルを感じられる。実験的なのにやかましくない点も気持ち良かった。高域が遠くに位置しているので心地良い。全然疲れない。


Hiatus Kaiyoteを地元で観る最大の価値のひとつは、サポートメンバーが勢揃いした構成でのライブを楽しめることだろう(近年はサポート込みで来日しているんですね)。この日はメンバー4人に加え、コーラスが3人、管楽器隊も数人いた。ステージ前方でワイワイしていたのも友達なんだと思う。その中の一人が、Nai Palmのソロライブのときと同じく、この場に来れない友人にSkypeでライブを中継してあげていた。

 

音楽の正しい姿というのは、コミュニティが所有している状態なのかもしれない。良い悪い、古い新しい、相対的な価値の移り変わりによる時々のチョイス。そういったことよりも、もっと素朴な役割を持っているんじゃないか。となんとなく思った。

Hiatus Kaiyoteは、自分がメルボルンに滞在していることを肯定してくれる存在だった様な気がするし、逆にあの街が居心地が良かったから一層彼らにハマってしまったのかもしれない。いずれにせよ音楽性と同じくらいコミュニティのノリが魅力的であったことは間違いない。

  


という感じです。いま読み返すと完全に熱にやられててエモい・・・。でもそのくらいこのバンドが好きな人や周りの人たちは盛り上がってました。

一方、以下のインタビューのとおり、無関心な人もかなり多かったような印象を受けます。当たり前ですが。

Hiatus Kaiyoteは、メジャーレーベルとの契約に署名し、プリンスとエリカ・バドゥに愛される存在だ。しかしこのメルボルンの四人組バンドは、オーストラリア国内ではほとんど認識されていない。

キーボーディストのマービンは語る。
「自分達がソニーとメジャー契約を結んだことがオーストラリアでほとんど認識されていないんだ。ショックだよ」

「オーストラリアでは、トリプルJ(オーストラリアのラジオ局)が望む音楽性でなければ、認知度を次の段階に上げることが不可能なのが現状。でも実際に世界の大きなレーベルが興味を抱いてるのは、オーストラリアのHip Hopなんだ」

「自分達の音楽は、オーストラリアのラジオ局がプッシュする音楽とは全く違うタイプ。だけど我々が国際的に関心を集めている理由は、オーストラリアが影響力のある場所だからなんだよ」

Melbourne `future soul' band find success offshore 

 

 

フィッシュマンズのエントリー内容に対して「海外の評価って気になるものなの?気にすべき?」といった感想も拝見しましたが、日本かどうかを問わず、外から認知されるというのはシンプルに喜ばしいことなんじゃないかなーと、この当時を振り返りながら思ったす。

 


フィッシュマンズ公式facebookにはツアーを望む多くの国外からのコメントが掲載されていて、昔のバンドではなく現行のバンドとして認知しているファンがいるようでした。こうした現象を通じて後続して他の若い音楽家の認知も高まるといいですね。

  
このブログの著者について

beipana ( twitter
コンポーザー、スティール・ギター・プレイヤー。DJ。2015年8月にデビュー7インチ『7th voyage』をJETSETよりリリース。同年11月に発売した、Nicole(My Little Airport)、VIDEOTAPEMUSIC、荒内佑(cero)などが参加したデビューアルバム『Lost in Pacific』は、英国ウェブメディア『FACT』にてライターが選ぶ2016年ベスト盤にも選出された。