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2018年 印象に残ったことなどまとめ

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気が付いたら年末。メモ用に2018年印象に残ったものをまとめました。キーワードは、lo-fi hip hopと10代の鬱、バイラルポップスター、This is Americaリアクション動画、山田玲司さん、SUGIZOさん、EUで可決された新著作権法などという感じです。

印象に残った曲

1. Jeremy Zucker - All kids are depressed

youtu.be

88risingのジョージのように、Lo-fi Beats的なプロダクションでバイラル・ポップ・スターとして今年躍進を見せたJeremy Zucker。バイラルのきっかけになった『All the Kids Are Depressed(キッズはみんな鬱)』はSpotifyで4,000万回以上再生され、YouTubeに公開した世界中の欝、精神疾患を抱える10代にインタビューして制作されたMVも話題になりました。

ローファイ・シーンで癒される憂鬱な10代

「グラミー賞は"Lo-Fi Hip Hop Anime Chil Beats To Study and Relax To"に決まりました」

Jeremyのサウンドともリンクするジャンル"Lo-fi Hip Hop"は、こんなジョークが15万回もリツイートされるほどの認知度になりました。Spotifyでも"Lo-fi Beats"が急成長したジャンルの2位となり、2018年はLo-fiシーンの盛り上がりが表面化した年でもありました。

以下のDazedの記事では、こうしたLo-fiシーンの盛り上がりの背景として、Jeremyが浮き彫りにしたような鬱や精神疾患を抱える10代の存在が語られています。

www.dazeddigital.com

ミームの対象にもなった『Lo-Fi Hip Hop Anime Chil Beats To Study and Relax To』を運営しているチャンネルCollege Musicのオーナーは「生配信のチャット機能が大きな売りになっている」と語っています。チャットでは匿名ユーザー同士で「眠れない」と睡眠障害を訴えるメッセージに「君が眠れるように祈ってるよ」とリプライするようなやりとりが行われており、ユーザーの大半が高校生だとか。

また別の人気チャンネル『Neotic』を運営するSteven Gonzalesは「自分が不安障害に見舞われた時、ヴェイパーウェーブやlo-fi hop hopが気を紛らわせてくれた。だからストリーミング配信を始めて、色んな人たちと恋やドラッグ、ゲーム、映画について話せる場を用意した。」と述べています。

一方、このシーンの人気レーベルのひとつであり、世代が一回り上のChill hopのオーナーは「なんでlo-fi hip hopのアーティストはあんなに悲しそうなんだよ。YouTubeにズラっと並んだ10代の悲しい悩みっぽい曲名笑えるわ」と呟いています。

こうした鬱に対する世代ごとの認識の違いについて、Jeremy ZuckerはGeniusで以下のように言及しています。

大半の人は実生活やSNSでうつ病を正当化することを拒んでいるけど、実際は誰もがうつ病と何かしらの関係を持っていて、それは人それぞれで異なるんだ。 今の10代の子供達は、精神疾患を建設的に対処できる最初の世代になると思うよ。子供に耳を傾けよう。

genius.com

Jeremy Zuckerはアメリカのシンガー、College MusicはUKのチャンネル、Neoticはコロンビアのチャンネルという感じで、Lo-fiシーンは世界同時進行している印象です。日本の10代はこのシーンにシンパシーを感じるのか、感じている人がいるのかが気になりました。

2. Mac Miller - Come Back To Earth

www.youtube.com

冒頭のコーラスに中毒性感じてます。「地上に帰る」というタイトルで「前は溺れていたけれど、今は泳げるようになったよ」という歌詞なのに、MVでは地上ではなく海底に沈んでいくように見えるのが痛々しい。

2018年、世界的にも大きな出来事だったMac Millerの急逝についてや個人的な思い入れは主に以下に記しました。

www.beipana.com 

以下2曲もローファイかつメロウで良かったです。

3. Milan Ring - 2063

近未来2063年を気だるく歌う曲。iPhone 70て。

会話をする。2つのワイヤレス・チャンネル、NBN の通信、iPhone 70を使って。 今は2063年。

4. Ru AREYOU - Law of Attraction ft. SUBI

引力の法則という曲名。曲調とともにサビも最高にレイドバックしてて良し。

どうして乗り間違えちゃったんだろう。ただ夕暮れの風を追っていたんだ。良い気分を味わい尽くして いつのまにか知らない駅に着いていたよ。

印象に残ったライブ

Phum Viphurit @ Shibuya WWW X,  2018/04/24

www.youtube.com

2018年1月、上述のローファイのジョークと同じ時期に「ニューエイジ・ヒップスターになるためのスターター・パック」というredditのスレッドがバイラルで廻ってきました。

The "new age hipster" starterpack from r/starterpacks

"AESTHETIC"、美容系スタートアップ"GLOSSIER"、コンブチャなど、ある種の若者たちにとって10年代後半を代表するモノやワードが並んだこの画像に対し「マック・デマルコの曲が頭から離れない」というコメントに賛同が多く寄せられています。

4月に鑑賞したアジアのバイラル・ポップ・スターことPhum Viphuritのライブは、そんな「ザ・今のインディー・アイコン」ともいえるマック・デマルコ直系の音を生で体験できたこと、そして今年を象徴する『竹内まりや Plastic Love現象*1』のようにアルゴリズムのバイラルしている最中の国外の音を軽いノリでサクっと観に行ったこと、その両方が相まってとても新鮮な体験でした。

4月時点では当日券で入れたし混雑もしていませんでしたが、今だとどうなんでしょうかね。

2018年末時点で3,000万回以上されている『Lover Girl』、88rising勢と一緒に再録したバージョンもあるんですね。2018年っぷり凄い。

www.youtube.com

エマーソン北村+mmm @ 下北沢 風知空知, 2018/07/30

www.youtube.com

掛け値無しに素晴らしかったです。特にRock Your Babyのダビーかつドリームポップ的カバーは、ベストとして掲げたエモーショナルなシンガーソングライター勢のサウンドメイクとも近しく感じられ、時代とリンクしてるようにも思えました。

 この『Rock Your Baby』のカバーは、UKのレーベルBALRARICのシリーズコンピ『BALEARIC』の最新作にも収録され、国内インディー的なノリから外れた聴かれ方もされ始めた印象です。

このコンピはイビザの空港にも陳列されているようです。すごい。

印象に残った動画

Childish Gambino - This is America

www.youtube.com

この作品によってYouTubeのリアクション動画の需要を改めて実感しました。「初見の人のリアクションを見たい」「知らない人にこれを見せたい」「語りたい」という欲求を突き動かしていたような気がします。リアクション動画の合計再生回数は、上位に掲載されるものだけでも3,500万回以上。

最も再生回数の多い単体リアクション動画がおそらくこちら。テキサスのアフリカ系の親子が視聴するもの。

www.youtube.com

初見のお父さんのリアクションだけでなく、銃の所持、チャールストンの銃乱射、マリファナについてお互いの世代の視点で語り合うのも良いです。お父さんの締めのセリフが聡明。

この作品だけじゃなくカニエの動向も含め、最近起きていること全てが"Thought-provoking conversation starters"だ。銃をどう捉えるか、アメリカの行く末をどのように見るか。コミュニティとどう向き合うか。我々はそういう機会を得たのだ。

このThought-provoking conversation starterとは「知性を刺激させる会話の糸口」つまり「示唆に富む問いかけ」。表現として存在するようです。勉強になりました。実際に「Thought-provoking conversation starter」になったからこそ、これだけ大量のリアクション動画が生まれたんだろうなー。 

こちらはイギリスの白人男性とアフリカ系女性カップルのリアクション。

www.youtube.com

「黒人であることがときどき悲しくなるよ。あたし達何かしたっけ?アメリカ人じゃないのに泣けてきた」と、微妙に気まずい沈黙とともに動画は終了。 

こちらは教科書のようなリアクション。

www.youtube.com

と、様々なリアクションを楽しめました。テキサスに住む人は銃乱射をチャールストンのことと捉える一方、他の地域に住む人はテキサスのことと捉えたり、白人は「黒人が黒人を撃つって何だっけ・・・?」と更に深読みしてたり。

さらに「あの馬は聖書の黙示録のシンボルで…」「銃を包む赤い布は共和党を意味している」「cellyは携帯と刑務所の両方の意味だ」といった謎解きも盛り上がり、そういった説明動画も上位掲載の3,000万回以上の再生回数。

公開から時間が経過しても、初見リアクション動画が大量にアップされているおかげで新鮮さがパッケージングされているのも、この作品の強みですね。 

こちらのリミックスもメロウでよかったす。

少女漫画クロニクル 

youtu.be

さくらももこさんの逝去も忘れられない出来事。その4ヶ月前に公開されたこの「少女マンガクロニクル」がとても面白かったす。少女マンガの表現がどのように変化していったかを、クロニクル形式で漫画家のおふたりが語るという内容。

少女マンガも当然手塚治虫から始まるんだけど、「少女は悲しいものが好き」という男性主観の少女観が当時の少女の感性とはかけ離れており、女性作家の台頭によって彼女達の感性に耐えうるマンガが登場。その土壌から生まれた萩尾望都、大島弓子などの24年組、高野文子、紡木たくといった作家達の革新性が語られます。

目の中のキラキラ表現の変遷(十字架、歓楽街(!)、窓など)や、紡木たくが輪郭を書くことをやめた話など、全て興味深かったす。

この山田玲司さんの動画、今年ちょくちょく観てました。以下の冨樫義博解説もプレゼンが上手。

www.youtube.com

80〜90年代の少年ジャンプのバトル漫画は「上を目指す・海外/外に出ていく」という当時の日本の好景気とリンクしており、一方で90年代末に誕生した『HUNTER×HUNTER』や『ナルト』は、外を目指さず中で資格をとって確実性を選んでいく実社会とリンクしている…という話など。

この説明が本当に正しいのか?という疑問もありますが、史実の正しさよりも面白さを優先するというのは映画『ボヘミアン・ラプソティ』っぽくもあり、2018年的なコンテンツだったと言えるかも。

印象に残った人物

SUGIZO

80年代の日本景気のような、熱血少年マンガのような上昇志向を2018年も続けているのがX JAPANでした。コーチェラで2日間トリには驚いた。

YOSHIKIが演奏後のMCで叫んだ「ロックをサポートしてくれてありがとう。ロックは生き続けるよ」という言葉、ビヨンセの真裏で演奏したことを考えるとなかなか感慨深い。もはや日本代表どころではなくロック代表になってしまったYOSHIKI。

2018年の1年を通じて常に目を惹く活動をしていたのは、そのX JAPANのメンバーでもあるSUGIZO氏でした。個人的にファンなので当然かもですが、ざっくりとピックアップしただけでもこんな感じ。

4月 コーチェラで両日トリ(X JAPAN)

www.laweekly.com

5月 ペプシプロモーション時にtiktokデビュー(SUGIZO)

5月 youtube 生配信 デビュー(SUGIZO)

6月 再生エネルギー分野の大学研究員に就任(SUGIZO)

www.asahi.com

6月 LUNATIC FES主催 @ 幕張メッセ (LUNA SEA)

9月 ソロツアー6箇所開催(SUGIZO)

9月 無観客ライブ含む幕張メッセ3日間ライブ(X JAPAN)

10月 日本人音楽家として初のパレスチナ難民キャンプでライブ(SUGIZO)

hbol.jp

12月 さいたまスーパーアリーナ(LUNA SEA)

12月 紅白歌合戦

国内外で超大規模のステージで演奏しつつ、その間ソロツアーも開催、再生エネルギー分野の客員研究員に着任、そしてパレスチナ難民キャンプでライブ公演。X JAPAN同様、50歳を手前にして90年代よりもアクティブで凄まじい振り幅のある活動は、1年を通じて目をひくものでした。

さらにtiktokやyoutube生配信など新しいメディアに順応している点も、この規模の活動をしている音楽家としてはかなり稀なのでは。

食レポシリーズの最新作はなんとパレスチナ。

www.youtube.com

印象に残った出来事 

FAANGの存在感の変化

2018年はFAANGと括られるFacebook,Amazon,Apple,Netflix,Googleといったアメリカテック企業に対する他国、特にヨーロッパの反発的な姿勢が印象的でした。今まで個人情報とみなされていなかったデータも個人情報と見なす法律GDPRがEUで施行され、テック企業に対するヨーロッパのスタンスが明確になりました。

2019年は新著作権法が採用されるかも

更に9月には、俗称「ミーム禁止法」とも言われるEU著作権指令の改正案が可決されました。これが実際に施行されると、EU圏内で著作違反のコンテンツがアップロードされた場合、著作者やユーザーではなくYouTube、Facebook、SoundCloudなどプラットフォームが全責任を取らなければならなくなります。つまり彼らにコンテンツを削除する責任があるということです。

補足 2018/12/16

下記DIGIDAY UKの和訳が詳しいです。パロディ、風刺としてのミームは例外とのことです。よって本ブログ内の"ミーム禁止法"という表現は変更しました。

digiday.jp

この改正案に賛成しているのは、ユニバーサル・ミュージック・グループ、ワーナー・ミュージック・グループを含む80以上のEU圏の団体です。反対派は、もちろんFAANGの面々ことGoogle、Facebook、Amazon、Netflixなどアメリカのテック企業。

最も強く反発しているのはYouTubeです。CEOのSusan Wojcicki は以下のような声明を出し、現在 #saveyourinternet(あなたのインターネットを守ろう)というキャンペーンも展開中。

著作権所有の不確実性と複雑さを考えると、YouTubeを含む我々プラットフォームは、ヨーロッパからのアップロードの大部分と、ヨーロッパでの他の場所でアップロードされたコンテンツの視聴をブロックすることを余儀なくされるでしょう。

YouTube Creator Blog: The Potential Unintended Consequences of Article 13

ただ、このキャンペーンが加熱し過ぎているようで、YouTubeがボットを使ってニセの反対署名を大量に作成している説があったり、煽りすぎた結果「案を取り下げないと死ぬ」と自殺をほのめかす子供まで登場している状況だそう。

適用されたらどうなるか

各国の法律として制定されたわけではないため、どこまで現実的に反映されるかは不明ですが、もしプラットフォーム側がこれに対応した場合、冒頭に記載したローファイ・シーンにも影響は出る可能性はあります。

オランダに拠点をおくレーベルChill Hopのオーナーは、チャレンジの年になるだろうと述べています。

2019年は自分たちのような音楽にとって挑戦の年になるだろう。 著作権の問題に対してYouTube、Spotifyなどのプラットフォームが全責任を持つようになるため、サンプリングされたトラックや音楽チャンネルの問題を解決するための対処の実施を余儀なくさるだろう。

https://twitter.com/Chillhopdotcom/status/1072924791689109504

一方で、フランスに拠点をおくレーベルChilled Cowのスレッドでは、選択肢はYouTube以外にもあるし、そもそも今の状態は健全ではないという意見もありました。 

Spotifyは、今音楽を聞きたいという場合のベストな選択肢だ。Bandcampもそれに次ぐものだ。そしてYouTubeのライブストリームからはアーティストへ一銭も収益が還元されていない。自分はもちろん第13条(ミーム禁止法)は支持しない。だけどもし適当なYouTubeチャンネルにお金を注ぎ込むよりも、アーティストに利益をもたらすファンであるならば、その方法をとってほしい。

[DISCUSSION][META] The future of Chilledcow (channel that runs the famous Lo-Fi beats livestream) and other European Lofi channels in light of Article 13. : LofiHipHop

また、竹内まりやの"Plastic Love現象"のような、第三者のユーザーがアップして巻き起こったバイラル現象も起こりにくくなるのではないかと個人的に感じています。もしああいった現象にEUのユーザーの視聴も大きく関わっていた場合、この法律が施行されてしまったら、あれほど大規模なものにはならないのではないかと。

しかし、上述のDigidayの記事にある”共同制作した最近の楽曲がYouTube上で5000万回の再生回数を得たにも関わらず、約2万1000円しか受け取っていない”という発言を読んでしまうと、表向きの現象だけ楽しんでいてもダメなのかもな、とも思ってしまいます。

2019年の1月に最終的な文言を定める欧州議会が開催されるので、動向は引き続き追っておきたいところです。

2019年は中央集権スタイルの終わりの始まり?

今年は、エンターテインメントへのブロックチェーン技術の浸透が2018年末から始まるという記事も公開されていました。つまりNetflixやSpotifyのような中央集権的な配信スタイルが終わり、誰もがパブリッシャーやプラットフォームになる時代がくるかもしれないということ。

ブロックチェーンテクノロジーは、NetFlixのような中央集権型サービスの独占状況を破り、P2Pネットワークに置き換えることによってエンターテインメント業界を根本的に混乱させる能力を持っている。・・・2018年末にかけてブロックチェーンの多くのプロジェクトが生まれる予定で、2019年と2020年には急速な成長が見込まれる。ビデオレンタル店の役割をNetflixが奪ったように、それらが娯楽市場を支配するには数年かかるだろうが、2020年代の娯楽市場は「ブロックチェーンの10年」になるかもしれない。

venturebeat.com

日本だと近年ようやくストリーミングのプラットフォームが出揃った印象ですが、世の中の流れはすでにもう一歩先に行っているんでしょうかね。閲覧・使用・視聴履歴とコンテンツがきっちり紐付けば、上述した違法コンテンツ問題も解決してくれる可能性も感じます。だいぶ先だと思いますが。

日本では00年代から10年代にかけて、ガラケーからスマホ、i-modeからiOS、mixiからTwitter、Facebookと、ライフラインやプラットフォームが国産から米国産に移行しました。2020年代はそれらの米国産プラットフォームが世界にとって少しずつ当たり前ではなくなっていくかもしれません。ドラスティックではないけれど、気が付いたら徐々に何かが変わっている…というのを、2019年あたりから徐々に感じていくのかも。

 

という感じです。

2019年はとりあえずGame of Throneの最終章をきっちり見届けたいす。

www.youtube.com

*1:ついに削除されました…